小田急電鉄50000形VSE車
2009年2月14日追補


全体的な造形はドイツ鉄道ICE3に似ており、特に側面は車体下部の捻りを含め、大変良く似ている。
前面に鉄道友の会ブルーリボン賞という一趣味団体の表彰ステッカーがもう1年以上貼りっ放しである。
2008年4月、新百合ヶ丘。

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本稿は、2005年1月に本ホームページ用に纏めました。

 概要:
 2004年11月に公開され、2005年3月19日より営業運転が開始された小田急の特急車である。
 30000形がゆったりとした内装と裏腹に、その箱型車体からビジネスライクな印象を持たれ、観光イメージから遠ざかるのを嫌った小田急がロマンスカーの観光イメージ復活を期して登場させる、ある意味採算度外視の電車である。小田急はこの電車をVSE(Vault Super Express)と呼び、車体にも表記されている。Vaultとは丸天井の意で、要するに小田急はこの電車を丸天井特急と呼んで欲しいわけだ。確かに天井は丸いが、この丸っこい造形を含め、全体的にドイツ鉄道ICE3に大変良く似ている。
 密かに7000形に装着してテストした傾斜機構付の台車を装備し、前頭部は展望台が復活。10車体11台車の連接構造である。
 前頭部は客室展望席が復活したが、3100形7000形10000形の様にパノラミックな展望を提供しようという姿勢は希薄で、目新しいデザイン(実はドイツ鉄道ICE3に酷似)を追うあまり、尖った鼻先に沿った巨大なピラーが左右に存在する。大きな曲面ガラスを用い、展望室を頑張って広く採った7000形が一つの究極ではなかろうかと再確認する次第である(そもそも、前面展望を期待する電車に全面展望をあまり考慮していないICE3のデザインをわざわざ真似して持ってくる理由がわからない)。
 デザイン先行の感もあり、かつてのロマンスカーのイメージカラーであったオレンジ色が復活という先行発表もあり大いに期待させたが、実際は白一色の車体に細いオレンジライン1本の配色(これもICE3と似た意匠である)と素っ気無く、エクステリアは窓の上下に戦前のHB車の如く当て板が付いておりレトロな感を狙っている節もあるなど、チグハグなデザインである。デザイナーが喫茶室にレトロなイメージを重ねたのかもしれないと当初は思ったが、今までの小田急ロマンスカートとの違いは殆どドイツ鉄道ICE3から持ってきた様なデザインである。
 ちなみにデザインは神戸芸術工科大学教授で岡部憲明アーキテクチャーネットワーク代表の岡部憲明氏(1947〜)。氏の経歴からして、依頼を受けた際、ヨーロッパの車両デザインも渉猟したであろうから、いくつかヨーロッパの高速車両のデザインを小田急サイドに提示でもした時に小田急からICE3のようなデザインと要望されたのかもしれない。
 では、この岡部憲明氏が模倣したと思われるICE3のデザインは一体誰によるものかと言う事になるが、これはドイツの工業デザイナー、アレクサンダー・ノイマイスター(Alexander Neumeister)氏の手によるものである。
 ノイマイスター氏については、氏のデザイン会社、N+P Industrial Design GmbHのウェブサイトを参照していただくとして、小田急が仮にドイツICE3のイメージを要望していたとしたら、なぜJR西日本(500系新幹線電車)や福岡市交通局(3000系電車)の様に直接ノイマイスター氏にデザインを依頼しなかったのか不思議である。
 室内は軽快であって、ICE3の様なゆったりした感じはない。同じ様にICE3のデザインの影響を受けたと思われるJR九州の885系電車の様に座席まで真似する気はなかった様だ。
 シートピッチは展望席が1150mmで、先頭車1010mと中間車1050mmが混在し、サルーンもあるが、オフィスチェアの様な座席の形状から受ける印象は喫茶コーナーのある会議室。調べてみると、座席はオフィスチェアの株式会社岡村製作所製であった。確かに最近のオフィスチェアは疲れ難く座り心地が良いが、デザインはオフィス離れして欲しかった。
 車体幅は2800mmしかないが、室内幅は2680mm確保している。
 箱根観光の人員が減ったのを受けたのか、編成全長は146.8mと、従来の11連接の車輌と同等の全長ながら定員は僅かに358名。
 10車体11台車にして客室を広く採る事とし、その為、車体をアルミ製として軽量化したと小田急は言っているが、編成総重量は260.2tと7000形の267.44tより僅かに軽いに過ぎない。3100形の冷房装置増設後が233.65〜235.07tであったから、それと比べると50000形が軽量化を謳うほど軽くなっているわけではない、というか車体幅が2800mmしかない割には重い。連続窓と車体強度の兼ね合いで重くなったのかもしれない。
 3100形が当初10車体11台車で計画されたが軸重の関係で11車体12台車になってしまった点に鑑みると、台車の削減はレールの規格アップに負う所が多いと言うべきであろう。

 制御装置は電動機4個制御の東芝製2レベルIGBTインバータSVF-073A0を4台積み、主電動機の個数は編成16個。主電動機は1時間定格出力135kw/1130V/95A、6極の三菱電機MB-5110-A。歯数比は79:19=4.16で30000形の6.53と比べてかなり低い。設計最高速度は130km/hとしている。
 台車は軸箱支持が積層ゴム片支持式で、これまでの小田急の台車とは脈略がない。中間電動台車がND-735、中間付随台車がND-735T、両先頭付随台車がND-736Tで、型番通り日本車輌製であり、付き合いの長い住友金属製ではない。車体製造メーカーである日本車輌に台車を含めて検討させたのではないかと推察される。両先頭台車の車輪径は762mmと小さいが、それ以外は標準的な860mmである。駆動方式は小田急が通勤車で愛用しているWN駆動であるが、小田急の特急車では初採用である。
 空気ばねによる車体傾斜機構を持っているが、これまでの重心を下げて何とかしようという思想とは違って、支持位置を重心近くに持っていこうと言う考え方に立っている。そのせいか、屋根を3915mmと異様に高くする事に成功したが、床面高さはレール面から1120mmと通勤電車である3000形と同じであって、低重心設計ではない。
 傾斜機構は、50km/hで空気ばねで車体を持ち上げてスタンバイし、曲線区間で内側の空気ばねの空気圧を減じて傾斜させ、30km/hで停止するという。
 パンタグラフは離線対策として編成引通し線を持っているのに4台もあり、極めて冗長である。床下機器をカバーで覆い、ギヤ比を下げて騒音を抑えた云々している割には、騒音発生源の一つであるパンタグラフが多いのは不可解である。小田急の架線状況はそんなに悪いのであろうか。
 運転台は一人乗務とされ、助手席を省略してコンパクトにされた。マスコンは左手手前に寄せられ、計器類はデジタル表示、視野が狭いのを補う為に3台のカメラで後方と前方直前をモニタ表示できるようになっている。しかし、デザインの為に運転手に無理を強いている様な感じがするのが気のせいだといいのだが。
 この電車は箱根専用として運行されており、江ノ島線での運用はない(ただし、2007年のニューイヤーエクスプレスとして江ノ島まで営業に遠征した事はある)。かつて、箱根にNSE、江ノ島にSEと使い分け、江ノ島線の特急列車設定が散発的だった頃に似たダイヤ構成に戻している事と考え合わせると、小田急が過去の栄光を振り返っている節が感じられる。
 小田急は、千代田線乗り入れ特急として60000形MSE車を新規投入しており、今後50000形が増備されるかどうか微妙なところである。
 全体として、まさしく走る喫茶室であるが、喫茶室と言いながら、どこか華があったNSEとは若干趣が異なる様だ。
 鉄道友の会の2006年ブルーリボン賞を受賞している。

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 履歴:
 ●竣工

 2004年12月23日、50001+50101+50201+50301+50401+50501+50601+50701+50801+50901日本車輌
 2005年2月15日、50002+50102+50202+50302+50402+50502+50602+50702+50802+50902日本車輌

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