関西テレビ制作テレビドラマ
「結婚できない男」雑感。
ここではドラマ劇中のセリフを引用させていただいています。
2006年9月25日初版
カミサンが阿部寛さんが好きなんで第1話からチェックしてたテレビドラマ。
9月19日めでたく全12話完結。
僕の方はというと、第1話で夏川結衣さん演じる夏美の方に眼が行ってしまった。何本かビデオを借りてみたが、今までは暗い役が多かったのね(この件についてはまた別の機会に譲る)。
最初に言ってしまうが、毎週楽しく見させていただいた。
後味も大変良かった。
語りがなく、心理描写もほとんど言葉でされない。期待を裏切りながらも期待通りの結末に向かう。
主人公は住宅建築設計の桑野信介(阿部寛)。相手役は勤務内科医の早坂夏美(夏川結衣)。
信介を主に据えて物語が展開するが、心理描写の主は夏美に置かれている。
自称結婚しない男・信介と結婚できない女・夏美の物語で、実際の内容は「結婚できない女」である。
12月にDVDが出るそうだから、見逃した人は観て損はないと思う。
以下雑感。
信介って、終盤に人が変わったのかと思って改めてビデオを見てみると、実はそんなに変わっていなくて、第3話でお金で困っている隣人のみちるがスナックでアルバイトをしてるのを見兼ねてお金渡しに行ったりして、結構いい人振りを見せている。
で、結局うまく渡せずに、夏美のとこで相談してて、その時の様子をみちるに話す時に、夏美は信介の事、「悪い人ではないと思う」と言っている。
一方の信介は、第4話で夏美を花火に誘っている。双眼鏡を2つ用意してて、それに気づいたのは夏美だけだった様子。
話の展開としては、行きつ戻りつてな風で実は確実に前に進んでいる。
かなり早い段階で、信介は夏美に好意を寄せているような素振りを見せている。
第3話でははとバスで乗り合わせた夏美の様子を興味深そうに観察しているし、第4話で花火を楽しむところに一人浴衣姿で現れた夏美を見て喜んだ後、みんなが一緒に来てると解り落胆している。
第1話で信介は夏美に「お誕生日おめでとうございます」と言われて謎の涙を流しており、一目惚れの風でもある。
一方の夏美は第8話で散歩させているKENが迷子になった時、駆けつけてKENを探す信介の姿を見て信介への好意をかなり明確に表す。この時夏美はKENの目が信介の目に似てると思うのだが、第10話で信介の母・育代が同じ事を言っている。
また夏美は犬(=KEN)を愛せる人(=信介)は人(≒夏美自身?)も愛せるよね、てな事も言っている。これが第9話の夏美の恋愛願望にうまく繋がっているし、信介はかなり夏美の見合いの結果を事を気にしている。
第10話で信介にとって必要な人、沢崎がいることを明確にし、第11話で英治が信介を尊敬しているのを明確にし、隣人みちるに信介が恋愛対象になりうると言わせて最終話の前で完全に外堀を埋めている。
終盤まで基本的に一話完結で、夏美と信介は噛み合わない風な話が続くけど、流れは作られている。
実は信介も夏美もお互いに嫌いじゃなかったんだと。
これが観る方に無意識に感じられる様に巧みに作られていて引き込まれてしまう。
全体として、信介と夏美の気持ちの底を最後まで言葉で語らせていないのがいい。筋に一貫性を持たせている筈の母親(最初に夏美と信介が結婚する事を考えている)も、そう出番が多くなく押し付けがましくない。流石ベテラン草笛光子さん、ストーリーをしっかり支えてくれた。画面には登場しないが、夏美の話から、何度か夏美の診察室を訪れている様子が伺えるから、ひょっとしたら母親が夏美を洗脳して嫌悪感が除去したのかもしれない。
信介も、第7話で夏美の父親に会っており、第8話で夏美に様子を聞いてるから、お互いの親を知っているのであって、結婚後の障害は少ない。
さて、そんな流れが断ち切られるのは最終回のしかも後半。今までの漠然とした気持ちが夏美が「ボールを投げた」事で明快になるのだ。ズケズケ言っていた信介も言葉を選んで応じようとしている。その前に怒鳴り合いの喧嘩をさせているのも効果的。
その後夏美は診察室に「キャッチボールしに来た」と告白しに来た信介に「家なんかどうでもいい。家なんか要らない。そんなの賃貸でも何でもいいじゃないですか。」という下手なメロドラマ顔負けの凄いセリフを叫んでいる。これ、家に拘る信介に対する喧嘩のセリフだけど、考えてみりゃ、あなたと住めればどこでもいいって言ってるわけだから、信介が羨ましい。
ラストの橋の前でのシーンは僕の好み。誘い方、誘わせ方が大変いい。
第4話の信介が夏美を花火に誘うシーンと対比する事で、信介が夏美を必要としているのに、ようやく夏美が誘わせる形で同意するように変化したのが解る。
夏美はそれまでもニコニコしてる事が多かったけれど、この時の「はい」と応える時の笑顔が特別にいい。
その次のカットで、信介が夏美のスーパーのレジ袋を持っているのもいい。個人的には信介が手を伸ばして夏見がごく自然に袋を持ってもらうシーンも見たかった。
二人が映る最後の最後、少し距離を置いて歩いていた夏美が、信介が「スーパーで、何を買ってきたんですか?」(このセリフは音が小さく、音楽がかぶっていて普通に聞いていたら殆ど聞き取れない)と左手の夏美のレジ袋を持ち上げるのを見てサッと信介の左腕に右手を伸ばしているのだ。手を繋いでいるようにも見える。このシーンは人物描写が小さく、時間も1秒ほどで、良く見えない。
もう少しやり取りを見たかったが、あとは視聴者のご想像にお任せ、という事なのだろう。
余韻が強烈だ。続きが見たくなる。でも、物語そのものはここで終わりでいい。この二人のエピソードの続編は必要ないと思う。信介という「結婚できない男」の話は実は夏美という「結婚できない女」の話と対になっていて、タイトルをテーマとしているのなら充分完結している。
この2人なら披露宴はやらないかもしれないし、結婚式は神前か教会かって話の時に、意表をついて信介が仏前と言い出して大喧嘩になりそうだ(般若心経が頭に浮かぶ人なのだから!)。でも、そういう付け足しは必要ないと思う。
見た人たちがそれからをどう考えようと、悪い方には考えにくい、それこそハッピーエンドになっているから。
でも、やるんだろうなあ。
やるとしたら、セコイ裏番組潰しのスペシャルなんかじゃなくて、連続ドラマにして欲しい。
しかし、これからへの伏線はいくつか張られている。
その1.実はもう一人の「結婚できない男」であった金田を明確にしている点。
新たな「結婚できない男」の物語の予感。
その2.信介のお袋が、夏美と信介が一緒になれば、老人ホームの必要がないと思っている節があって、それを老人ホームのパンフレットを捨てると言う形で示されている点。
でもこれを伏線として物語を創ると、嫁姑の話になってしまう。
あんまり見たくないような。
その3.英治が沙織とデートしているのにもかかわらず(荷物を持たされている)、ウエディングドレスを眺める彼女をいぶかしがる風で見ている点。
実は結婚する気はない?
その4.役の年齢設定が俳優の実年齢より概ね2年ほど少ない。
無理なく2年後の後日談が創れる。
その5.夏美と独身話の時にオホホと作り笑いで笑いあっていた「結婚できない女」沢崎のその後。金田と結婚するのか!
でもやっぱりこの物語は二人で歩みだしたところで終わりと言うことで・・・。
以下余談。
以下思いつくまま。
1.最終回に信介がコンビニの女性店員とレンタルビデオ店の男性店員が結婚指輪をしているのに気が付くが、この二人、当初はこの指輪をしていない。
偶然なのかと言うと、そうではない。
第8話でこの二人、揃って顔に絆創膏をしてるし、第10話では二人ともブレスレッドをしているし、第11話ではコンビニの店員が男性だった時にレンタルビデオ店が休みだったのだ。この二人の結婚式でもあったのだろう。
2.行動を共にする事が多い夏美とみちるは常にパンツルックで裸足。みちるのディーラーの制服はスカートだが、夏美のスカート姿は第7話の父親の結婚式帰りと第10話の沢崎の祖母の通夜のシーンだけだったようだ。
3.回想シーンといえば、最終回に信介が「ボールは投げました」という夏美を思い起こす場面くらいしか思い浮かばないが、それまで安易な回想シーンを使っていないからこそこれが生きてくる。
実際に夏美が語っているシーンと信介が思い起こす場面が微妙に違っている。
思い起こす場面の方が夏美の髪が風でそよいでいて若干距離を置いており美化されている風でもある。
4.金田の愛車は希少車トヨタ2000GT。
これが少なくとも2台使い分けられている。ちょっと見たところ、8話10話は前期型(フォグランプが大きい)、12話は後期型(補助灯具が大きい)だった。11話も後期型だったようだ。
5.どうしても。
この物語の一番のキーワードか?
下に挙げた以外にも出てくる、信介の誘導常套句。
・第4話で信介は夏美がお袋に帯止めを贈ってくれた礼を言う際、7月27日木曜日の神宮花火大会に誘っている。
信介が花火の話をするのを聞いて、夏美は「もしかして、誘ってくれてます?」と尋ねる。信介は「え、まあ、いや、あなたが、どうしてもとおっしゃるなら。」と言っている。この時の夏美のリアクションは「すみません・・・(略)」、信介は「え?」
・第10話では信介が沢崎を引き止めるのに「どうしてもと言うのなら」と使っていて、この時は沢崎が継続して仕事の付き合いをしてゆくという事で応じている。但し沢崎は「どうしても」とは応じておらず、信介の方が「どうしても」と思っているのが明白。信介と付き合いの永い沢崎には信介に「どうしても」と言わせる必要はないか。
・最終回ではまずテレビ出演を承諾するのに使われている。
ラストシーンでは遠まわしに誘う信介に、夏美が「もしかして、うちに来いって言ってますか?」と尋ね、信介は「え?まあ、でも、あなたがどうしてもとおっしゃるのなら」と応じている。
夏美は誘って欲しい素振りだが「どうしてもなんていいません。・・・でも、あなたがどうしてもって言うなら行ってもいいですよ。」と投げかけ、信介に「じゃあ、来てください。どうしても。」と言わせている。信介は夏美に対しては言葉遣いは割合丁寧だが、最終回でかなり崩れる。
全般的に、信介が自分がしたい・して欲しい事を他人からの依頼にすり替えるの使われている。ラストシーンではそのことを夏美は逆手にとっている。このラストの切り替えがいい。
6.ロールキャベツ。
第5話で夏美の手料理として登場するロールキャベツ。
最終回で夏美が自室でひとりニタニタしながら食べてるのもロールキャベツ。ちょっと前にある信介が一人食べる手巻き寿司のシーンと相似。
夏美が信介の部屋で最初に作る手料理も、きっとロールキャベツ。
信介は夏美の作ったロールキャベツの味については一言も言っていない筈なのに、夏美はニコニコして「わかってます。」
7.7月5日。
信介の誕生日。
最終回で夏美は信介のカルテを眺めていて、そのカルテの誕生日の欄に7月5日の日付がある。
最初に出会った日がこの少し前。それから3ヶ月たった。
最後の二人のシーンでは秋の虫の声が聞こえている。
放送初回が7月4日で、最終回が9月19日。途中花火大会もあってドラマの中で流れる時間と放送の時期がシンクロしていて、ドラマの中での時間の飛躍がない事に気づく。
8.ラストの家の模型とスケッチ。
家の模型の庭にはガーデンテーブルに2体の人形、スケッチの右下に何か書いてある。
残念ながら良く見えないが、スケッチブックには
"Shinsuke
&
Natsumi"
と書かれているようだ。
信介が設計した夏美の要望に沿う自分も一緒に住む理想の家と言うより、二人で創る理想の家を暗示するイメージ映像だろう。
ラストで二人は予期せずバッタリ出会っているから、信介は夏美を招き入れる準備を特にしていなかっただろうし、誰もいない部屋の照明が点いているからね。
11.徒歩。
登場人物の生活圏が狭く、移動は殆ど徒歩。
車は救急車と信介のお袋の移動とみちるの引っ越しのタクシーと金田くらいしか思い浮かばない。
劇中車を運転していたのは沢崎くらいだが、電車を使う事が多いような事を言っている。
トヨタ自動車がスポンサーで、ディーラーや2000GTまで出てくるのに、英治がみちるのいるディーラーに行っても車は買えっこないという事になっている。
バス電車の交通機関を利用しているシーンもなく、徒歩に徹しているのが凄い。
11.夏目結衣さんは、左利きらしい。劇中でも、バッグは常に右に掛け、身振り手振りは左手が多かった。但しペンは右手に持っていた。
どっかの掲示板で、左手に電話を持ってるからってのも理由に挙げられてたが、私は右利きだけど電話は左手に持つ。夏美も左手に受話器を持って右手でメモを取れるようにあけていた。
他にも気づたらゆくゆく追記・・・。でも終わっちゃったドラマだからなあ。
余談その2
本屋に雑誌を買いに行くついでにノベライズ本を見てみた。
ノベライズ本にはドラマにない後日譚が書いてあることがあるので何かのヒントになるかもしれない。
実物は思ったより判型が小さく、活字は大きい。
信介を一人称にした要約本という感じだった。
キャッチボールをしようとした決意は伺えるが、ここにはドラマ以上の発見はないので購入を見送った。
近くに般若心経の本もあって思わず買ってしまいそうになったが耐えた。
直接関係ないが、レインボーマンが唱えていた呪文が般若心経の一節である。